2月29日(火) at Roseland Ballroom |
会場はマンハッタンの52丁目にあるローズランド・ボールルームというキャパシ ティーが4500人程のホール。ブロードウェイからちょこっとだけ入ったところ にある、ロック系コンサートがよく行われるところ。当然の事ながら瞬間的に超ウ ルトラ・ソールド・アウトとなったライヴだけに、開場する前から付近は凄い人だ かり。「チケットあるよ〜」というダフ屋のおじさん達もたむろしてました。ちな みにアメリカのソニー・オフィスでも、この超話題のライブのチケットが全然足り ない!!!・・・ということで、公演前の一週間は「もし余っているチケットがあった ら、一枚でもいいからバックしてください!」という異例の社内メールがまわって いました。 | |
フィオナがデビューしたばかりの時には、客層は「フィオナ大好き!とにかくフィ オナに憧れています!」という感じの高校生〜大学生の女子もしくは業界人っぽい 人が多かったのに、さすがに350万枚売るとあらゆる層に浸透したらしくノン・ ジャンル。なんと言ってもやはり一番変わったのは「男の人達」が増えたこと。 (昔はフィオナのライブ会場で男の子なんて・・・見なかったからねぇ。)ま、と にかくこのプラチナ・チケットを手にした大喜びの人々で会場は満員でした。 |
オープニングは、なんとびっくりJurassic 5。ロスをベースに活動するヒップ・
ホップ・グループで、現在アンダーグラウンドで最も要注目な6人組(ジュラシッ
ク5なのに6人組!)。特にカット・ケミストとDJ Nu-Markという一目も二目も
三目も置かれる凄いDJを2人も擁する、かなりコアなアーティスト。(この人達
を起用してしまうとは、流石フィオナはNY育ちのヒップ・ホップ好き。)このミ
ス・マッチ具合(逆に言えば全く”狙う”意識が無い)が結果的には見事にはまって
ました。ステージはさすがに超アンダーグランドだけあって、(パンピー相手に少
しは手加減をしているとは言え)かなり渋いステージ。大きな箱にも関わらず、自
分たちの好き勝手やって、(一応途中、DJ二人で見せ場を作りあげたりしてまし
たが)、全く”エンターテインメント・ワールド”を意識せず、好き勝手に去ってい
きました。 次に登場したのは(少し前から”NYにはスペシャル・ゲスト有り!”って噂が飛ん でいた)、SNL(=Saturday Night Live)の超人気コメディアンJimmy Fallon。 (実はこのライブの前週の土曜日にフィオナちゃんはSNLに出演しており、番組 の予告編ではSNLでもピカイチの人気のお釜キャラ”マンゴ”君とからんで「あた しはアップル、あんたはマンゴ!」なんてコントもお披露目していた!)彼はいき なりアコギを抱えてステージに登場。大物真似大会を繰り広げていました。U2, 4non blonds, REM, カウンティング・クロウズ, アラニス、デイブ・マシューズ・ バンド、そしてジョージ・マイケルと、とにかく馬鹿うけな(そしてたいへんそっ くりな声色で)パフォーマンスを披露。 |
そしていよいよフィオナの登場。会場は2つの前座でうまい具合に盛り上がってお
り、いよいよ真打ち登場という瞬間には元々満杯だった会場が収容客数の倍入れて
るんじゃないの〜?みたいにギッシリに。スキップ&かけっこでステージに現れた
フィオナはとにかく嬉しくて嬉しくてたまらない様子。いつも彼女は話しています
が、NYというのは彼女にとっては特に大切な土地。もちろんNY生まれというこ
ともあるけれど、それに加えてNYのショウにはお母さん、お姉さん、友達が見に
来てくれるから「とにかく最高のものを見せたい!」場所なのだそう。ちなみにこ
の日は直前に出演したSNLの面々が来てくれていて、彼女のボーイ・フレンドで
あるポール・トーマス・アンダーソンの顔もありました。言うまでもなく、沢山の
プレスも来ていました。 「on the bound」でライブはスタート。ピアノに座って鍵盤をたたき始めた瞬間に 会場は膨らみきった期待感を昇華させた歓声とともに彼女を受け入れる。一曲目と は思えないテンション、いきなりトップ・スピードでのパフォーマンスがスター ト。何度も体験したことがあるとは言え、やはり壮絶な彼女のパフォーマンス姿に はのっけから打ちのめされます。MTVシューティングの時からは格段の(リハー サルでの歌い込みを容易に想像させる)まさしく”フィオナ・ワールド”が瞬時に展 開され始めたのでした。 ただ、今考えると、後に起こることを予感をさせるように、最初しばらく右と左の スピーカーの音量が違っていたりして・・・ちょっとPAが不安定だったのです が・・・。 |
そして、そのままピアノの前に座りつづけて「to your love」へとなだれ込む。こ
の曲の後半におとずれる「うねる」ボーカル部分では、最初からこんなに飛ばして
大丈夫かな・・・というほど、全身でふり絞るように声を出していて、ちょっとそ
の異様さに圧倒される。そしてその後はフィオナ最大のヒット曲「criminal」を歌
うためにステージ中央のマイクスタンドのところへ歩いていく。さすがに「TIDAL」
ツアーで歌い上げているだけあり、パフォーマンスとしては完璧の域に達している
のだが、ステージ上にどうしても落ち着かないフィオナがいるのです。この頃「モ
ニターが機能していない」という事が発覚。歌いながらPAに指示をだしている様
子。この時のフィオナは、少々動揺はしているものの「とにかくこのモニターを何
とかしましょう!」という指示を与えまくっている状態だった。しかし次の
「limp」でも全くその状態は改善されない。「本当にひどい音でご免なさい。私自
身、自分の歌っている声がきこえないの。」と客に謝る。 彼女は歌っている自分の声が全く聞こえず、(それでもメチャメチャ凄い声なの に)、自分で納得できない状況を何とか打開しよう・・・と、なんと自分の手で両 耳をふさいで歌い出した。音の大きなところで唯一自分の声を聞き取るには耳をふ さいで歌うしかない・・・と。 |
それでも彼女はパフォーマンスをやめない。多分この時点では、この、信じられな
い、現在起こっている馬鹿みたいな状態は、きっとすぐに改善される・・・と彼女
は信じていたのだと思う。
ステージ上でいらつきながら、彼女お得意の「fuck!」を連発して自分を奮い立た
せ、「とにかく私が収拾する以外にこの状態を乗り切る方法はないんだ」と思い込
み、同時に音響が悪い等々全ての責任が彼女にあるかのごとくに悩み込んでしまっ
ていたよう。ホントはそうじゃないのにね。 「sullen girl」で再びピアノの前に座るとマイクを通じて話し出す。「いくつか話 さなくちゃいけないことがあるわ。この後、数曲ピアノの曲が続くんだけど音が悪 くてごめんなさい。本当にみんなが気の毒だわ。もしかして私が音痴に聞こえるか もしれないんだけれど、実はステージのモニターが機能してないから、自分で声が 全然きこえないの。でも頑張るから。」 でも曲を歌い出した彼女の不安感はもう恐怖に変わっている。もしもこれが誰か他 のアーティストだったらば、単純に素晴らしいライブとして成立すると言ってもお かしくないライブなのだが、「完全主義者」のフィオナにとっては我慢ならない状 況でもう全身が震えている。そして声にもその震えは伝わってきてた。 会場にいたジャーナリスト達にむかって)「ノートをしまいなさいよ!もしあんた 達があたしを侮辱したら(fuck on me)、私はあんた達を殺すわよ!(I am gonna fucking kill you!)」と叫んで、そして同時に会場のファンに「ほんとにほんとに みんな、ごめんね。」「とにかく、楽しまなくちゃ!」と叫ぶ。 | |
でも次の「paper bag」になると、曲の途中ではっきりと彼女の泣き声が聞きとれ
る。しかし、驚いたことに、女の立場から男の人に向けてかかれているいわゆる
「女性の心情」的なこの曲を、会場全員が(そう、男の子達も!)とにかく大きい
声で合唱していた。サビの部分で声を合わせればいい・・・というタイプの曲では
なく、歌詞を覚えていなければ絶対に歌えない類の、物語的な進行をするこの
「paper bag」の歌詞を、曲頭からエンディングまで一字一句違わず全員が合唱し
ているのだ!!!! これは全身震えるくらいの衝撃以外のなにものでもなかった。男
性の太い低い声で「paper bag」が会場中に響いているなんてとにかく想像を絶する
光景だったから。 会場のファンは本当はこのひどい音響による一番の被害者であるはずなのに、逆に フィオナの方が”この音響に痛めつけられた人”という図式になっていて、とにかく ファンに謝り続けるフィオナとそれを励ますファン・・・という構図が展開されて いた。会場からは「We love you!」「You sound great!」と怒鳴りまくる声がきこ える。そうすると、さらにそれをうけて落ち込むフィオナ。もう全然コントロール が利かなくなってました。 |
「こんなのショウじゃない。」「みんな、ホントごめんね。」「もう一度、フ
リー・コンサートをあなた達のためにここ(NY)でやらなくちゃ」ショウの間、
フィオナはひたすらとファンに謝り続ける。
「くそ!くそ!」(fuck)を連発しながら「get gone」に移るのだが、もうこの頃
には曲を歌っている途中で、涙で歌えなくなって沈黙してしまう時間が増えてく
る。 また彼女はファンに叫ぶ。「私は本当にNYで良いショウがやりたかったの!!!」 今回のツアーのバンド・メンバーには入っていなかったのだが、多分ジョン・ブラ イオンと思わしき人がドラムセットの脇に座って、彼女のパフォーマンスの合間に も音をチェックし、曲のブレイクの時には側に寄っていき彼女を励ます。が、もう 焼け石に水。彼女が果てしなく落ち込み続けているのを誰も救えなくなってしまっ ていたから。 今までよりも少し長い曲間のブレイクがあり、ステージ上には何人もサウンド・ チェックの人々が上ってくる。もう、ホントにごちゃごちゃ。 あんな状況でそれでもまだ続けていたフィオナは普通の精神じゃかったと思える。 普通の人だったらとっくにやめてるはず。ぎりぎりの限界を超してもそれでもまだ HOPEを持ち続ける・・・というまさしく「THE FIONA」といえる姿でした。もう少し 頑張れば、もう少し頑張れば!と信じて頑張るんだけれど、でも同時にたいへん傷 ついており・・・。 | |
でもまだライブは続く。他のバンド・メンバーが一旦ステージから下りて、フィオ
ナが一人ピアノの前に残り「love ridden」を始める。彼女は「自分の中にどうしよ
うもない感情が生まれると、ピアノの前に座って、落ち着くまで一人でピアノをた
たき続けるの。曲を書くときにもそう。そういう物を自分の身体の中から外へ出す
唯一の手段なの」と自分の生活の中でのピアノ/音楽との関わり方について語ってい
たが、バンドが引き払ってしまったステージにポツンと一人と残り、ピアノの前に
座って泣きながらピアノを弾いてほとんど声にならない歌を歌っている彼女は、4
500人と同じ空間に居ながらも本当にひとりぽっちになってしまっていた。 それでもまだ次の曲を歌う。ステージ真ん中に歩いてきた。「sleep to dream」 だ。スタンディングのままマイクを掴み「carrion」を歌い出す。でも途中で曲はぼ ろぼろになって、フィオナ自身が「この曲は死んじゃった。(this song is dead)」と 言って演奏を続けていたバンドを制して中止する。そしてまたいちばん最初からや り直す。この「一曲を最後までまともにできない自分」の姿がやっと彼女自身に決 意させたのだと思う。「5分間ステージをおりるわ。戻ってくるから。」と言って 彼女はステージを降りた。かわいそうなことに、SNLで共演したグエニス・パル トロウが会場に到着したのはフィオナがステージを降りるほんの数分前。 |
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彼女が姿を消して30分くらい経過して、会場にアナウンスが流れ「今日のチケッ トをなくさないようにしてください。今日の代わりのショウが行われることになる と思います。フィオナは今夜はもうステージを続けられません。」と告げられた。 |
ストーンズとのツアーではミックが彼女のパフォーマンスに舌をまいて絶賛し、
ウォールフラワーズとのツアーでは彼らの観客を全部もらっちゃうような伝説のス
テージを繰り広げ、「お客さんの顔が見えない方が楽だから」・・・とライブの時
にはいつも眼鏡をはずしてステージに上っちゃうようなフィオナ。「あがり症」な
んて発言もあるが、彼女にとって一番大きな問題なのは、ビッグ・アーティストと
やることなんかよりも、彼女が満足できるクオリティーをもったライブができるか
否か・・・という一点だけなんでしょうね。次の日の新聞でも、音楽欄でのライ
ブ・レビューで載っかるはずが、いろんな新聞で普通の「事件欄」に載っかってい
ました。(「事件扱い」というのもすごいけど)。いろいろな論調でこの日の「事
件」が伝えられていたけれど、ずばり言い当ててる!って思ったNYの[NEWSDAY]か
ら記事の一部を引用しておきましょう。 | |
“音響トラブルがあったにも関わらず彼女が素晴らしく聞こえていたのを、 アップルは知らなかった” サウンド・システムの連続的なトラブルの後、アップルは度々涙ぐみ、怒り、謝罪 し、そしてパフォーマンスの2/3のところでステージを歩き去った。彼女は5分 間の休憩を取るといってステージを降りたのだが、30分後に、コンサート続行が 不可能だというアナウンスがされた。もちろん、パフォーマンスというのはひどい 音響(ローズランドにおいてはしばしばあることなのだが)の犠牲になってはなら ないものなのだ。 〜中略〜 残念ながら、アップルが聴きとれなかったのは(モニターからの自分の声ではな く)実際はいかに彼女が凄かったか、そして実際はいかに彼女のバンドが素晴らし い演奏をしていたか・・・ということだった。彼女は22才とは思えない成熟した 激烈さをもって歌い、その洗練されたピアノ演奏は心臓に直接切り込んでくるもの だったのだから。(後略) | |
all photo by 梨子田まゆみ |
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