パティ・スミス、フィリップ・グラスとの『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』公演終了、明日よりビルボード公演をスタート。
2016年6月4日(土)公演レポート
約3年ぶりにパティ・スミスが日本にやってきた。詩人を目指しニューヨークに出てきた彼女が敬愛したビート詩人アレン・ギンズバーグの生誕90周年(97年死去)を讃え、ミニマル・ミュージックの巨匠フィリップ・グラス等と6月4日すみだトリフォニーホールでのイベント『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』に参加するためだ。
イベントはまずパティの娘でピアニストのジェシー・スミスとチベット人シンガー、テンジン・チョーギャルの演奏で開幕。ジェシーはパティの『バンガ』('12)でもピアノで参加してたが、テンジンの力強い歌声に寄り添うミニマル的で女性らしいピアノを聞かせ、テンジンも民族楽器ダムニェンを手にして多彩な引き出しを聴かせてくれた。
約20分ほどのセットが終わると、少しマイク類を直しただけでパティとフィリップが登場し、パティからあらためてイベントを行える感謝の気持ちが<アレンが生きていれば90歳、フィリップが80歳、私が70歳、ベイビーみたいなもんよね>と微笑ましく伝えられ、アレンが反戦、反核の人であったこととオバマ大統領の広島行きにも触れ、あらためて反戦のメッセージを込め自作詩「Notes to the Future」の朗読からスタートする。今回、村上春樹と柴田元幸が新たに手掛けた訳がバックのスクリーンに大きく映し出され、文字とステージからの言葉が自然に混ざり合い、11年ぶりの来日となったフィリップがピアノでバックを付けるが、その繊細なフレーズ、やさしいタッチが力強いメッセージとみごとな綾を成していく。ミニマル・ミュージックの旗手としてばかり語られるが、ピアニストとしての叙情性と少ない音数の中に凝縮された思いの表現はみごとのひと言。
続いてアレンの「Wichita Vortex Sutra」「The Blue Thangka」「Sunflower Sutra」が朗読されるが、前日の記者会見でフィリップは<不思議なことにパティがアレンの詩を読むと、それはアレンであり、同時にパティでもある>と語っていたが、その感覚が目の前で繰り広げられるパフォーマンスからもよくわかる。ときに芝居がかったアクションを見せたり、唾を吐きながら言霊を引きずり出そうとするパティがギンズバーグの姿に重なり心の奥底から熱くなってきた。
そしていったん二人は去り、あらためてパティがジェシーと盟友レニー・ケイを伴い登場し、まずアルバム『ウェイヴ』('79)からの「ダンシング・ベアフット」を聴かせるが、ジェシーの柔らかなピアノとレニーのアコースティック・ギターのせいか、最初はことのほか丁寧な歌声で、パティの姿が、初めてギンズバーグと出会い、男の子と間違われたというチェルシー・ホテルの初々しい光景が浮かんでくる。
2曲目はジェシーが小さかった頃に書いたとMCされた『ゴーン・アゲイン』('96)の「ウィング」を、これまたこのセットでしか出せないニュアンスで聴かせていくが、ここでパティはバースを間違いレニーに確認して謝りつつ歌い継ぐが、(タイトルにかけて)<鳥になって飛んでったみたい>と恥ずかしそうに言う様子がホントに少女のようで、あの力強く気魄溢れるメッセージをぶつける姿とはまったく違っていて、この両面を持つところがパティの魅力だ。3曲目は<アレンのフェイバリット・ソング>と紹介した『ラジオ・エチオピア』('76)の名曲「ピッシング・イン・ア・リヴァー」で、言葉が畳みかけられ、イメージが奔流となって溢れ出すのがアレンの好みだったのだろうが、今回は穏やかなピアノとギターのバックながらパティの歌は進むにつれて激情を帯び、会場を挑発するかのようで、もっとも興奮させられた。
そんな熱くなった会場をクールダウンさせるかのように三人に入れ替わりフィリップが登場し、アレンの詩世界と呼応する美しい「Metamorphosis」「Closing」を聴かす。そこにパティが加わり「On Cremation of Chogyam Trungpa, Vidyadhara」や「Magic Psalm」、そして最後に代表作の「Footnotes to Howl」をまさに炎を吐かんばかりの熱量で朗読していくが、世界の都市名が歌い込まれた一部を<東京>と読みかえることでアレンの魂をみごとに降臨させてみせた。
最後は、全員が登場し「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」を会場と一体となって歌う。フィリップも手拍子を打っている様子が微笑ましく、会場の熱さを感じていると前日の会見でパティが<アレンがよく言ってたのは、アーティストっていうのは、どうしても自分の世界の中に入り込んでしまう傾向があるけど、そのエネルギーを人々に与えることが重要なんだ>との言葉を思い出してしまった。
まさにオマージュと実践、言葉と音楽の力、それを体感させて貰った素晴らしいイベントだった。
(公演レポート:大鷹俊一)
パティ・スミスは明日7日にビルボード東京公演、9日にはビルボード大阪公演を行う。
【公演概要】
Patti Smith
acoustic concert with Jesse Paris Smith and Lenny Kaye
東京公演:6/7(火)ビルボードライブ東京
1stステージ 開場13:00 / 開演 14:00
2ndステージ 開場19:00 / 開演 20:30
大阪公演:6/9(木)ビルボードライブ大阪
1st ステージ 開場13:00 / 開演 14:00
2ndステージ 開場19:00 / 開演 20:30
[メンバー]
パティ・スミス (Vocals)
レニー・ケイ(Guitar)
ジェシー・パリス・スミス(Poetry Reading)
テンジン・チョーギャル(Vocals / Guitar)
※Opening Actにジェシー・パリス・スミスとテンジン・チョーギャルの出演がございます。